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(さきのだいそうじょうじえん)
<1155年~1225年> |
76番・法性寺関白藤原忠通(ふじわらのただみち)の6番目の息子です。兄は九条兼実(かみざね)、甥(おい)は91番・摂政良経(よしつね)という、貴族社会の頂点にあった一族ですが、13歳で出家しました。天台宗の座主(比叡山延暦寺の僧侶の最高職)となりました。後鳥羽院に高く評価され、「新古今集」撰修のための和歌所の寄人(よりうど)に選ばれました。歴史書「愚管抄(ぐかんしょう)」の作者です。 |
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『千載集』雑中・1137 |
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身の程に過ぎたことながら、私はこの世の人々の上に、おおいかけることであるよ。比叡山に住み始めた僧として身につけているこの墨染めの衣の袖を。 |
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慈円は後に天台座主(てんだいざす:比叡山延暦寺の長)になる高僧です。「千載集」ができたのが文治4(1188)年ですので、おそらく慈円が、20代の頃に詠まれたものだろうと思われます。(寿永元年、28歳ごろという説があります。)平安末期といえば、源平の戦い、飢饉、悪病の流行、天災が相次いだ混乱期で、生きることへの危機感は、現代とは比べものにならない時代でした。13歳で出家した慈円は、仏教を志す若い僧侶として、苦しみの多い現世でなんとか民を救いたいという決意を歌にしたのです。天台宗の開祖・最澄(伝教大師)が詠んだ歌の本歌取りです。第3句の「わがたつ杣」は比叡山の事で、最澄の歌の表現をそのまま使っています。最澄の意志を受け継ぎ、国家のために身を捧げようという使命感と理想があふれた歌です。また、初句の「おほけなく」には自分の若さや未熟さを認める謙虚な姿勢が感じられるとともに、体言止めと倒置法によって、慈円の気迫が強調されています。 |
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【おほけなく】
「おほけなし」は「身分分相応だ」とか「恐れ多い」という意味です。慈円は時の関白の息子でしたので高い身分でしたがここでは謙遜の意味で使っています。
【うき世の民】
「うき世」は「憂き世」で、「辛い世の中」を意味しています。慈円の生きた時代は、保元・平治の乱など戦さが続いていました。「民(たみ)」は人民のことです。
【おほふかな】
「(墨染の袖で)覆うことだよ」という意味で、この場合は作者が僧ですので、仏の功徳によって人民を護り救済を祈ることを指しています。「おほふ」は「袖」と縁語です。
【わがたつ杣(そま)に】
「杣」は植林した木を切り出す山「杣山(そまやま)」のことで、ここでは比叡山を指します。「私が入り住むこの山で」という意味になります。
【すみぞめの袖】
僧侶の着る墨染めの衣の袖の意味。「墨染」と「住み初め(住みはじめること)」の掛詞で、前の「おほふかな」に続く倒置法を使っています。 |
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●「おほけなく」の歌の舞台は天台宗の開祖・最澄が開いた比叡山延暦寺です。「一切の真理を悟られた仏たちよ、私の入って立っているこの杣山、比叡山に、どうか加護をお与えください」という最澄の歌が本歌です。 |
●東塔の中心的な建物である根本中堂は、延暦寺の総本堂です。平成の大改修が行われています。 |
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●最澄(伝教大師)が詠んだ歌は「新古今集」の釈教歌(しゃくきょうのうた:仏教にかかわる述懐の歌)にあります。「阿耨多羅(あのくたら) 三藐三菩提(さんみゃくさんぼだい)の 仏たち 我が立つ杣(そま)に 冥加(みょうが)あらせ給へ」(一切の真理を悟られた仏たちよ、私の入って立っているこの杣山、比叡山に、どうか加護をお与えください」という歌です。天台宗の開祖・最澄が比叡山に根本中堂(こんぽんちゅうどう)を建てた時に詠みました。
●慈円は仏教の力によって世の平安と救済を祈り、最澄の仏法の伝統を継ぐという意識で「わが立つ杣」の表現を多用しました。「我立杣門人」と署名しています。 |
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●杣という言葉通り、比叡山には杉の巨木がそびえっています。 |
●東塔エリア文殊楼のかたわらに「おほけなく」の歌碑があります。 |
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