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(かわらのさだいじん)
<822年~895年>
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源融(みなもとのとおる)のことです。嵯峨(さが)天皇の皇子でしたが、臣籍(しんせき=家臣となること)に下って源氏の姓を受けました。従一位左大臣まで出世し、大きな権力をもちました。京都の東六条、鴨川(かもがわ)のほとりに六条河原院という豪華な別荘を造りました。 |
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「古今集」恋四・724 |
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陸奥(みちのく)で織られる「しのぶもじずり」の乱れ模様のように、私の心は乱れているが、いったい誰のせいでしょうね、私のせいではないのに。(あなたのせいです)。 |
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「しのぶもぢずり」は、忍ぶ草で摺(す)った布のことをいいましたが、平安時代の中頃には現在の福島県信夫郡で産する布のこととされていました。遠い陸奥(みちのく)の特産品であるしのぶもぢずりは、都の人の目にはとても新鮮に映ったことでしょう。その乱れ模様は恋に乱れる気持ちを連想させました。また、「しのぶ」という言葉は、心に秘めた片思い。「忍ぶ恋」であることを暗示しています。相手は恋してもかなうはずのない高貴な人や他人の妻でしょうか。恋人から心変わりを疑われた作者が、いったい私の気持ちが乱れているのは誰のせいだと思うのですか、あなた一人のためなのですよ、と自分の愛が変わっていないことを訴えています。掛詞や縁語を用いた技巧的な歌ですが、それを感じさせない美しさがあります。 |
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【陸奥(みちのく)】
現在の東北地方の太平洋側にあたる東半分を指し、「道の奥」が縮まったものです。当時の都、京都から遠く離れていて、貴族たちがあこがれた歌枕の地です。実際に出かけてその地で詠んだわけではありません。
【しのぶもぢずり】
東北の名産品。「もぢずり」とは、現在の福島県信夫地方で作られていた、乱れ模様の摺り衣(すりごろも)のことです。摺り衣は、文字のような模様のある石の上にかぶせた布に、忍草(しのぶぐさ)の汁を擦りつけて染める方法で「しのぶずり」などとも言われます。この「しのぶ」は、産地の信夫とも、忍草のことだとも言われます。ここまでが序詞で、後の「乱れそめにし」にかかります。
【誰ゆゑに】
誰のせいでそうなったのか、という意味です。
【乱れそめにし】
乱れはじめてしまった、という意味。「そめ」は「初め」の意味とともに、「染め」にも引っかけられています。「乱れ」と「染め」は「もぢずり」の縁語です。
【われならなくに】
「私のせいではないのに」という意味で、「あなたのせいよ」という意味をほのめかしています。 |
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●「しのぶもぢずり」とは、よじれた模様のある石に草を敷き布をあててすりこみ、直接緑に染める古来の染色法です。福島県福島市にある史跡・文知摺石観音(もじづりかんのん)の境内に信夫文知摺石があります。信夫文知摺石を右に進むと河原左大臣の歌碑があります。 |
●河原左大臣は、あこがれていた陸奥(みちのく)の景色を楽しむため、六条河原院という豪華な別荘を鴨川のほとりに造りましたが、東本願寺の渉成園(しょうせいえん)は、河原院の風情をしのぶことができます。 |
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●「伊勢物語」の1段「初冠(ういこうぶり)」には「陸奥の」の歌が引用されています。元服直後の若い男が、奈良の春日で偶然若く美しい姉妹と出会い、着ていたしのぶもぢずりの狩衣(かりぎぬ)の裾(すそ)を切って、「春日野の 若紫の 摺り衣 しのぶの乱れ 限り知られず」(春日野の若い紫草のように美しいあなたにお逢いして、私の心はこの紫の信夫摺(しのぶずり)の模様のように、かぎりなく乱れております。)という歌を書いて贈ります。それが、この「陸奥の」の歌を元に作ったものだと語られています。また、同じ「伊勢物語」の81段「塩竈(しおがま)」では、融が親王(みこ)たちを招いて酒宴を開き、河原院の趣ある様子をほめる歌を詠みあっている様子が描かれています。
●97番・定家はこの歌を気に入っていたようで、「陸奥の 信夫もぢずり 乱れつつ 色にを恋ひむ 思ひそめてき」という本歌取りの歌を作っています。「しのぶもぢずり」が人気の題材だったようです。 |
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●渉成園(しょうせいえん)には、源融(みなもとのとおる)の供養塔や塩竃の手水鉢なとがあります。リーフレット「名勝渉成園」に園内の建物や植物について詳しく説明されています。 |
●●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では、100基の歌碑めぐりを楽しめます。「陸奥の」の歌碑は、亀山公園にあります。 |
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