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(ちゅうなごんかねすけ)
<877年~933年> |
藤原兼輔(ふじわらのかねすけ)。57番・紫式部の曾祖父で、25番・三条右大臣藤原定方はいとこにあたります。三十六歌仙の一人です。和歌・管弦に優れ、妻の父である定方とともに延喜歌壇の中心的な人物でした。堤第(つつみてい)という屋敷にさまざまな人を招き、35番・紀貫之や29番・凡河内躬恒など下級歌人を援助しました。 |
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『新古今集』恋 ・ 996 |
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みかの原を二つに分けて、わき流れていく泉川の名ではないが、いったいいつ見たというので、こんなあなたを恋しいのだろうか。
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湧き出る水は恋心を、原を分ける川は恋しい人との隔たりを感じさせます。泉川までが掛詞で、「分ける」と「湧ける」を掛け、泉(いずみ)と「いつみ」を掛ける。さらに「わき」は「泉」の縁語と、ふんだんにテクニックを使った恋の歌です。下の句にはいくつかの解釈があります。「うわさは聞いているが、一度も逢ったことのない女性への恋」か「一度は逢ったが、その後久しく逢えない女性への恋」というものです。今では「一度も逢ったことがない女性への恋」説が有力だと言われています。定家もうわさでしか知らない女性にあこがれる純粋な恋の歌と解釈していたようです。平安時代の貴族の女性はめったに屋敷の外へ出ることもなく、御簾をへだてて話をしましたので、男性は世間のうわさや評判を頼りに恋人を探しました。会ったこともない女性に恋することはよくあることでした。兼輔が宮中に仕え始めた若い頃、兵部卿宮(ひょうぶきょうぐう)のお姫さまの美しさをうわさに聞いて恋しく思って詠んだという説があります。
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【みかの原】
「瓶原(みかのはら)」と書き、山城国(現在の京都府)の南部にある相楽(そうらく)郡加茂町(かもちょう)を流れる木津川の北側の一部を指します。聖武天皇の時代に、しばらく恭仁京(くにきょう)が置かれました。
【わきて流るる】
「わき」は四段動詞「分く」の連用形で「分けて」という意味ですが、「分き」と「湧き」(水が湧く)を掛けています。「湧き」は「泉」の縁語でもあります。全体で「分けて流れる」と「湧き出て流れる」という意味です。
【泉川】
京都南部を流れる現在の木津川のこと。ここまでが序詞です。歌の意味は下の句だけでわかるので、序詞は飾りのようにみえますが、泉川の水の動きのイメージが、恋心を効果的に伝える働きをしています。
【いつ見きとてか】
「き」は過去の助動詞、「か」は疑問の係助詞です。「いつ逢ったというのか」という意味です。
【恋しかるらむ】
「恋しかる」は形容詞「恋し」の連体形で、「らむ」は推量の助動詞です。どうしてこんなに恋しいのだろうかと自問しているのです。 |
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●この歌の舞台「瓶原(みかのはら)」は、京都府の南部、奈良県との境に近い木津川の流域です。京都府木津川市加茂町例幣の恭仁(くに)大橋南西脇に歌碑があります。この辺りには8世紀に恭仁京(くにのみやこ)が置かれ、栄えました。 |
●恭仁小学校の北に大極殿の礎石跡が残っています。また加茂町には、恭仁京で鋳造されたという日本最古の貨幣、「和同開珎(わどうかいちん)」の鋳造所も発掘されています。 |
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●「みかの原」の歌は家集の「兼輔集」にはなく、「古今六帖」ではよみ人知らずとなっています。「新古今集」に撰入した時、誤ってか意図的に兼輔作とされたようです。たいへん技巧的な歌で、3句目までは「いつみ」を導き出すための同音の序詞になっています。「泉・いつみ」という同音反復によって歌の調べもなめらかになっているだけでなく、泉には恋情がわきでるようなイメージも感じられます。この序詞はこの歌が初めて用いた技巧のようです。 |
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●JR関西本線・加茂駅で下車して加茂町へ入ると、背後に山並みを控え、急に明るい野が開けます。この小盆地を「みかの原」と呼んだのは上代からで、町制移行まで瓶原(みかのはら)村でした。泉川とは京都南部を流れる現在の木津川のことです。
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●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では、100基の歌碑めぐりを楽しめます。「みかの原」の歌碑は、常寂光寺と二尊院の間の長神の杜公園にあります。 |
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