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(みなもとのしげゆき)
<940年~1000年頃> |
清和天皇のひ孫で、父は源兼信(かねのぶ)ですが、伯父の参議兼忠の養子になりました。晩年は、宮中で暴力事件を起こして左遷された友人の51番・藤原実方(さねかた)に同情して、ともに陸奥(みちのく:今の東北地方)に下り、実方の死後もその地にとどまり、60歳余りで亡くなりました。三十六歌仙の一人で、勅撰集に66首入首しています。 |
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『詞花集』恋上・211 |
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風が激しいので、岩に打ち当たる波が自分だけ砕(くだ)け散るように、私だけが心も砕けんばかりにもの思いに悩んでいるこの頃であるよ。 |
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風がとても激しくて、海に顔を出した岩に波がぶち当たって砕けている。岩はびくとも動かないのに、波は何度も岩に当たり、そして粉々に散っていく。つれなく立つ岩が振り向いてくれない女性であり、砕ける波は千々に思い悩む男性を暗示しています。片思いの恋の苦しさを、激しい風に吹きつけられた波が岩に砕け散るイメージと重ねた、大胆で力強い詠みぶりです。実は「砕けてものを思ふころかな」は、平安時代の歌によく使われる恋の悩みの表現ですが、序詞で嵐の海の情景を詠み込んだことで、劇的な名歌となりました。後々まで多くの人に愛誦(あいしょう)され「金玉集」や「詞花集」にも入集しました。なお、この歌は冷泉天皇が東宮であったころに奉った百首歌の中の一首で、この百首歌は現存する最古の作品の一つです。 |
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【風をいたみ】
「いたし」は「程度がひどい、はなはだしい」という意味の形容詞です。「…(を)+形容詞の語幹+み」で「…が~なので」というように原因・理由を表す語法となり、ここでは「風が激しいので」という意味になります。
【岩うつ波の】
「岩に打ち当たる波の」という意味で、ここまでが序詞です。
【おのれのみ】
「のみ」は限定の副助詞で、「自分だけ」という意味。「おのれのみ」をはさむことで、波がくだけ散る海の光景を、作者の心情イメージへと変えています。
【砕けて】
「くだけ」は下二段活用の自動詞「くだく」の連用形で、微動だにしない岩にぶつかって砕ける波と、振り向いてくれない女性に対して思いを砕く自分、という意味を重ねています。
【ものを思ふころかな】
「物事を思い悩んでいるこの頃だなあ」という意味になります。 |
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●岩にぶつかって砕ける波という表現が効果的です。 |
●晩年は、宮中で暴力事件を起こして左遷された友人の51番・藤原実方(さねかた)に同情して、ともに陸奥(みちのく:今の東北地方)に下りました。 |
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●「風をいたみ」の歌は、重之が30日の休暇をもらって、天皇に奉じるためにつくった「百首歌」の中の一首です。「百首歌」は、一人で百首詠む和歌の新スタイルです。46番・曽禰好忠が始めたもので、「重之百首」はそれに次ぐ作品と思われます。春夏秋冬が各20首、恋と恨(うらみ)が各10首という整った構成になっているところから、「百首歌の始(はじめ)」と呼ばれました。
●勢いよく寄せてくだけ散る波は、岩のように心を動かそうとしない女性に言い寄る、片思いを表すものでした。「くだけてものを思ふ」の表現は、当時は歌によく使われた慣用句的な表現のようです。19番・伊勢の「風吹けば いはうつ波の おのれのみ くだけてものを 思ふころかな」(「伊勢集)が本歌ではないかといわれています。重之の友人である46番・曽禰好忠にも「山がつの はてに刈りほす 麦の穂の くだけて物を 思ふころかな」という一首があります。) |
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●嵯峨嵐山文華館には重之の歌と人形が展示されています。 |
●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では、100基の歌碑めぐりを楽しめます。「風をいたみ」の歌碑は、常寂光寺と二尊院の間の長神の杜公園にあります。 |
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