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(ごんちゅうなごんさだより)
<995年~1045年> |
藤原定頼。56番・四条大納言藤原公任(きんとう)の長男で、正二位権中納言まで昇進し、四条中納言と呼ばれました。和歌だけでなく書道や管弦、誦経(ずきょう)にも優れ、58番・大弐三位や65番・相模など同時代の女流歌人との恋愛も多く、特に60番・小式部内侍(こしきぶのないし)との逸話は有名です。 |
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『千載集』冬・419 |
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夜が白々と明けていく頃、宇治川の川面に立ちこめた霧がとぎれとぎれになって、その間からぽつぽつと現れてくる川瀬の網代木(あじろぎ)よ。 |
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「千載集」の冬に収められた歌で、詞書に「宇治にまかり侍りける時よめる」とあるので、定頼が位の高い人のお供をした時の歌なのかもしれません。京都の南郊、山深い宇治には、平安貴族の別荘が建てられ、都の人々が訪れる機会も多くありました。「網代」は氷魚(ひお:あゆの稚魚)をとるためのしかけで、宇治川の冬の名物として知られていました。宇治に一泊した定頼が、窓辺から宇治川を見ると、夜明けとともに川霧が次第に薄らいでいき、宇治川の水面に網代木の列が次々に見え始めます。冬の早朝の景色を、霧や大気の動きでとらえた水墨画を思わせる叙景歌(じょけいか)です。宇治といえば霧のイメージが強く、その動きを「たえだえに」と表現した写実の確かさが見事です。清々しい空気まで感じられます。「源氏物語」宇治十帖の世界を連想させる歌に、定家は魅力を感じたのでしょう。
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【朝ぼらけ】
夜明け、あたりがほのぼのと明るくなる頃。冬や秋の朝について用いられます。
【宇治の川霧】
宇治川は京都南部を流れる川。琵琶湖の南から流れはじめる瀬田川の下流、京都府に入る手前から桂川・木津川と合流して淀川となる大山崎の辺りまでをいいます。
【たえだえに】
とぎれとぎれに。この場合は、川霧がきれぎれに薄れていき、晴れてくる様子を表しています。
【あらはれわたる】
あちこちに表れてくる、という意味。
【瀬々の】
瀬は川の浅いところの意味です。
【網代木(あじろぎ)】
「網代(あじろ)」は、冬に氷魚(ひお:鮎の稚魚)を取る仕掛けです。川の浅瀬に杭(くい)を打ち、「簀(す)」という竹や木で編んだざるを仕掛けるもので、「網代木(あじろぎ)」は網代に使う杭のことです。当時(平安時代)の宇治川の風物詩でした。 |
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●宇治茶で有名な京都・宇治は、平安時代には大和地方や初瀬詣に行く途中にある地で、宇治川のあたりは、貴族の別荘が多く建てられ、リゾート地として有名な場所でした。 |
●宇治川にかかる宇治橋は、瀬田の唐橋、山崎橋と並んで日本三古橋の一つです。646年に架けられました。 |
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●この歌に出てくる「網代」は、宇治川の冬の風物で、53番・藤原道綱母の「蜻蛉(かげろう)日記」や菅原孝標女(たかすえのむすめ)の「更級(さらしな)日記」などにも登場します。都の貴族には川の浅瀬に沿って、ずらりと並ぶ網代木(杭)の情景が、美しくも面白いものに映ったことでしょう。平安後期になると、歌に多く詠まれるようになりました。
●この「朝ぼらけ」の歌を見ると、当時の人たちは「源氏物語」の宇治十帖を思い出します。宇治は、光源氏の宿命の子・薫(かおる)を主人公とした舞台です。八の宮の宇治の山荘の描写にも「網代のけはひ近く、耳かしがましき川のわたり」「入りもてゆくままに、霧ふたがりて」とあります。貴族たちはこの歌に幻想的な物語世界を感じたことでしょう。 |
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●「網代(あじろ)」は、冬に氷魚(ひお:鮎の稚魚)を取る仕掛けです。氷魚は3~6cmくらいで、体が氷のように透き通っているためこう呼ばれています。 |
●川の浅瀬に杭(くい)を打ち、「簀(す)」という竹や木で編んだざるを仕掛けるものです。「網代木(あじろぎ)」は網代に使う杭のことです。 |
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