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(さんぎひとし)
<880年~951年 |
源等(みなもとのひとし)。嵯峨(さが)天皇のひ孫で、臣下に下って源氏を名のりました。中納言源希(みなもとのまれ)の子です。歌人としての経歴は詳しくわかりません。家集もなく、歌合などの活躍の記録もなく、有名ではなかったようです。「後撰集」に私生活での詠歌が4首のみ入集しています。 |
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『後撰集』恋・578 |
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浅茅(あさじ)の生える小野の篠原(しのはら)の「しの」ではないが、人に隠して忍んでいても、もう思いがあふれてしまって。どうしてこんなにもあなたのことが恋しいのだろう。 |
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詞書には、「人につかはしける」と記されていますので、特定の人に詠みかけた歌のようです。「古今集」のよみ人知らずの歌「浅茅生の 小野の篠原 しのぶとも 人知るらめや 言ふ人なしに」(心の中に思いをしのばせていても、あの人は知ってくれているだろうか? いや、だめだろう。伝えてくれる人がいなければ)」の本歌取りです。本歌の「不安な気持ち」をふまえて「がまんし続けていてもあふれそうな恋の心」として表現しています。歌のポイントは、その恋心を「浅茅生の小野の篠原」と組み合わせた、イメージの豊かさにあります。茅(ちがや)がところどころに生えている篠原は、荒涼とした風景です。人目を忍ぶ恋がかなう見こみはないのに、恋しさは増すばかりです。「をののしのはら しのぶれど」の「の」音のリズムが恋心の高まりを感じさせます。下の句で「なぜこんなにもあなたが恋しいのだろうか」と自問する形で、つのる恋心を激しく表現しています。 |
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【浅茅生(あさぢふ)の】
「浅茅(あさぢ)」は、まばらに生えている茅(ちがや)のことで、「生(ふ)」は「生えている場所」のことです。
【小野の】
「小」は接頭語で、言葉の調子を整えるために入れます。「小野」は「野原」のことです。
【篠原】
細くて背の低い竹「篠竹(しのたけ)」の生えている原っぱのことです。風が吹くと葉がずれの音が広がるような風景です。ここまでが序詞で「忍ぶれど…」に掛かります。
【忍ぶれど】
「忍(しの)ぶれ」は、上二段活用動詞「忍ぶ」の已然形で「しのぶ」「がまんする」という意味です。「ど」は逆接の接続助詞です。
【あまりてなどか】
「忍ぶ心をがまんできないで」という意味です。「などか」は疑問の意の副詞「など」にやはり疑問の係助詞「か」がついて「どうしてなのか」という意味になります。
【人の恋しき】
「の」は「人」が主語であることを表す格助詞で、「恋しき」は形容詞「恋し」の連体形です。「などか」の「か」を受けた係り結びになっています。 |
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●茅(ちがや)はイネ科の植物で、屋根を葺(ふ)くのに用いられました。春、葉が出る前に花が白絹のような穂になって咲きます。※茅の写真 |
●篠原(しのはら)は、細くて背の低い竹「篠竹(しのたけ)」の生えている原っぱのことです。※篠竹の写真
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●「浅茅生の」の歌は「後撰集」に採られた以外は、ほとんど評価されませんでした。「小野の篠原」という表現も「古今集」のよみ人知らずの歌と、等の歌の2首以外は見当たりません。雑草の生い茂る野原、その荒涼たる風景がかえって忍ぶ恋のせつなさを強調する効果があると評価したのは97番・定家です。
●定家は「小野の篠原」という表現が気に入っていたようで、「拾遺愚草」で本歌取りをしています。「夕ぐれは 小野の篠原 しのばれぬ 秋きにけると うづらなく也」や「あさぢふの 小野の篠原 打ちなびき をちかた人に 秋風ぞふく」など多用しています。これ以降、用例が増え、等の歌は名歌として認められたのです。 |
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●嵯峨嵐山文華館には参議等の歌と人形が展示されています。 |
●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では、100基の歌碑めぐりを楽しめます。「浅茅生の」の歌碑は、奥野宮地区の野宮神社のそば、竹林に囲まれたエリアにあります。 |
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