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(にじょういんのさぬき)
<1141年~1217年> |
父は武将・歌人として有名な源三位頼政(げんさんみよりまさ)です。平安時代末期から鎌倉時代前期にかけての歌人で、女房三十六歌仙の一人です。父や兄から歌を学び、二条院歌壇で活躍しました。平氏討伐のために挙兵した父と兄が、宇治平等院の戦いに敗れ自害しています。「わが袖は」の歌は当時から大評判となり、「沖の石の讃岐」と呼ばれました。 |
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『千載集』恋2・760 |
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私の袖は、引き潮の時にも海中に隠れて見えない沖の石のように、誰に知られることもないでしょうが、恋の涙で乾く間もないのです。 |
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「千載集」の詞書に「寄石恋(いしによするこひ)といへる心をよめる」とあり、石を詠みこんだ恋歌という題で詠んだ歌です。自分の心情を事物にたとえる手法で「寄物陳思(物に寄せて思ひを陳ぶる)」と言います。和泉式部の「わが袖は 水の下なる石なれや 人に知られで かわく間もなし」という歌もとにした本歌取りなのですが、「水の下なる石」という表現を、海水に変えて、潮の干満をからませています。人は知らない密かな恋心を、海のかなたの沖の石にたとえた発想が新鮮です。「濡れた袖」は古典ではよく使われる表現で、とめどなく流れ落ちる涙を袖で拭うので、「袖が濡れる」「袖が乾かない」などというように、暗喩として使われます。例え潮が引いても永遠に海中にあって現れることのない沖の石を比喩としたことで、せつない思いを胸に秘めて人知れず涙を流し、耐え続ける女性の姿を描ききりました。 |
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【潮干に見えぬ沖の石の】
「潮干(しほひ)」は、海の水位が一番低くなる引き潮の状態のことを言います。「見え」は下二段動詞「見ゆ」の未然形、「ぬ」は打ち消しの助動詞「ず」の連体形です。また、「潮干に見えぬ沖の石の」は、次の「人こそ知らね乾く間もなし」の序詞です。
【人こそ知らね】
「他人は知らないけれども」という意味です。「人」は、取り方によっては、「恋人(相手)」とも「世間の人々」ともとれます。「こそ」は強意の係助詞で、「ね」は上の「こそ」の結びで打ち消しの助動詞「ず」の已然形です。「こそ~已然形」で次に続いていくと、逆接の意味になります。
【乾く間もなし】
最初の「わが袖は」を受ける言葉です。「も」は強意の係助詞です。 |
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●歌に出てくる「沖の石」には、2つ説あります。夫・重頼が陸奥守でもあったので宮城県多賀城市の沖の石。末の松山の南、住宅地に囲まれた小さな池に「沖の石」があります。昔はここまで海だったと言われています。 |
●また、.父・頼政の所領、若狭矢代の浦の沖合にある大石であるとか、田烏の沖に浮かぶ小さな岩礁であるともいわれています。※若狭の海の石 |
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●讃岐の「わが袖は」の歌は、父の源頼政の歌「ともすれば 涙に沈む 枕かな 潮満つ磯の 石ならなくに」(ややもすると恋の涙に沈んでしまう私の枕だなあ。潮の満ちてくる海辺の石でもあるまいに)もふまえています。父が満潮時の石を詠み、娘が干潮でも見えない石を詠んだことになります。また、父とともに宇治平等院釣殿で自害した兄の仲綱は「みつ汐に かくれぬ沖の はなれ石 霞にしづむ 春の曙(あけぼの)」と詠んでいます。この歌からも影響を受けたのではいわれています。
●父、息子、娘に共通する「石に寄せた歌」の背景に家族の悲劇が思い浮かびます。女性である讃岐は、平家の世から鎌倉初期まで長い寿命を保ちました。 |
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●田烏の海を見渡す永源寺には、讃岐の菩提が祭られ、「わが袖は」の歌碑があります。「二条院讃岐姫かるた大会」が開催されるそうです。(福井県小浜市 田烏) |
●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では、100基の歌碑めぐりを楽しめます。「わが袖は」の歌碑は、中之島公園よりさらに下流にある嵐山東公園にあります。 |
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