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(きのつらゆき)
<生年未詳。868?~945年> |
平安時代最大の歌人で、生きているうちから歌聖とされ、和歌の歴史に大きな影響を与えました。33番・紀友則は、いとこです。「古今集」の中心的撰者であり、三十六歌仙の一人です。「古今集」の歌論として有名なひらがなの序文「仮名序(かなじょ)」を書き、6人の歌人を批評しました。我が国最初の日記文学「土佐日記」の作者としても有名です。 |
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『古今集』春・42 |
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人の心は移ろいやすいものだから、あなたのお心は、さあどうだかわかりませんが、昔なじみのこの里の梅の花だけは、昔のままの香りで咲き匂っていますね。 |
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この歌は「古今集」に収められたものですが、詞書に「初瀬に詣(まう)づるごとに宿りける人の家に、久しく宿らで、程へて後にいたれりければ、かの家の主人(あるじ)、『かく定かになむ宿りは在る』と言ひ出して侍(はべ)りければ、そこに立てりける梅の花を折りて詠める」とあります。つまり、昔は初瀬の長谷(はせ)寺へお参りに行くたびに泊まっていた宿にしばらく行かなくなり、何年も後に訪れてみたら、宿の主人が「このように確かに、お宿は昔のままですのに(あなたは心変わりされて、ずいぶんおいでにならなかったですね)」と言いました。そこで、梅の枝を折ってこの歌を詠んだ、ということです。「あなたの方はどうだったのですか? ずっと覚えていてくれたのでしょうか。梅の花は昔のままの香りを漂わせていますのに。」と、人の心の移ろいやすさと、変わらずに咲き匂う花の美しさを対比させました。即座に切り返した紀貫之の機知を感じます。 |
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【人は】
贈答歌ですので、「人」は直接には相手のことを指していますが、後の「ふるさと」と対比した、一般的な「人間」という意味も含んでいます。
【いさ心も知らず】
「いさ」は下に打消しの語をともなって、「さあどうだろうか、…ない」という意味になります。「心も知らず」は「気持ちも分からない」という意味ですので、全体では「さあどうだろうか、あなたの気持ちも分かったものではない」という意味になります。「も」は強意の係助詞です。
【ふるさとは】
「ふるさと」には、「古い里」「古くからなじんだ場所」「生まれた土地」「古都」などの意味があり、ここでは「古くから慣れ親しんだ土地」という意味になります。
【花ぞ】
「花」は普通桜を指しますが、ここでは「梅」です。「人の心」と「ふるさとの花」が対比されています。
【昔の香ににほひける】
「にほひ」は動詞「にほふ」の連用形で「花が美しく咲く」という意味です。色彩の華やかさを表してる言葉でしたが、平安時代になると視覚だけでなく「香り」も含まれるようになりました。 |
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●「初瀬の長谷(はせ)寺」とは、現在の奈良県桜井市初瀬町の長谷寺です。長谷寺の 境内には、「人はいさ」の歌にちなんで「紀貫之故里(ふるさと)の梅」と銘のある梅の花があります。(写真右上) |
●奈良時代には花といえば梅が人気でしたが、平安時代初期は桜へと人気が移り変わっていく転換期でした。あえて梅の花を詠んだところに、人の移り気を重ねているのかも知れません。 |
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●「貫之集」には、「人はいさ」の歌をうけ、宿の主人の「花だにも 同じ心に 咲くものを 植ゑたる人の 心知らなむ」(花でさえ昔と同じ心で咲くというのに、その木を植え育てた人の心が変ることなどあるでしょうか。その花を植えた人の心も察してください。)という内容の返歌がついています。主人は女性で、遠い昔の恋を暗示しているのではと考えることもできますし、男友だち同士のしゃれたやり取りとも考えられます。
●「古今集」の哀傷歌には、「人はいさ」の続きのような歌があります。詞書には「あるじ身まかりける人の家の梅の花を見て」(主人が死んでしまった家の梅の花を見て詠んだ歌)とあり、「色も香も 昔の濃さに 匂へども 植ゑけむ人の 影ぞ恋しき」(梅の花は色も香りも昔同様の美しさに咲き輝いていますが、この梅の木を植えたという亡きご主人の面影の方が恋しく思われるのです。)花の美しさがかえって亡き人を思い出させて悲しいという歌です。貫之の歌は「古今集」には102首も入集しています。読み比べてみましょう。
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●滋賀県・西大津バイパスそばにある「福王子神社」は貫之を祭神としています。貫之の墓は比叡山・裳立山(もたてやま)にありますが、遠方で難所のため、この地にまつられています。案内板には「人はいさ」の歌が紹介されています。 |
●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では、100基の碑めぐりを楽しめます。「人はいさ」の歌碑は、亀山公園にあります。 |
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