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(さるまるたいふ)
<生没年不詳>
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三十六歌仙の一人ですが、「古今集」の真名序(漢文による序)には「古猿丸大夫」とあるので、奈良時代以前の伝説の歌人です。平安時代の書物にも、すでに「何(いず)レノ世ノ人トモ知レズ」と記されています。想像上の人物ではないかという見方もあります。この歌も、「古今集」では題知らずよみ人知らずとして紹介されています。 |
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「古今集」秋上・215 |
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人里離れた奥山で、散り敷いた紅葉を踏み分けて、妻が恋しいと鳴く鹿の声を聞くときこそ、秋はひときわ悲しく感じられることだよ。 |
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人の住む村里から遠く離れた山奥に、敷(し)きつめられたように散っている紅葉を踏みながら、鹿が天を仰いで一声高く鳴きます。雌(めす)の鹿を求めて鳴いているのでしょう。その声を聞いていると、秋は物悲しい季節だなあとしみじみ思えてきます。秋になると、雄の鹿は雌を恋しく思って鳴くとされていました。本来、秋は米の収穫の時期で、実り豊かな季節です。鹿の声から秋のもの寂しさや人恋しさを感じる発想は、貴族という都会生活者の感覚から生まれたものかもしれません。また、紅葉を「ふみわけ」ているのは誰かということについては、鹿であるという説と、作者自身であるという説があります。前者なら、作者は山里にいて、山の奥からかすかに響いてくる鹿の鳴き声を聞いていることになります。また、作者が奥山までやって来たとすると、むくわれない恋の切なさを抱き、孤独の中にひとときのやすらぎを求めて奥山までさまよってきた作者が、同じように妻を求めて鳴く鹿の声を耳にしたのかもしれません。 |
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【奥山】
人里離れた奥深い山のことです。
【紅葉踏みわけ】
散った紅葉が地面いっぱいに敷きつめられたところを、雄の鹿が踏み分けていくこと。昔から、人が歩いているのか鹿なのかが議論されていましたが、現在は鹿とするのが一般的です。
【鳴く鹿の】
秋には、雄の鹿が雌を求めて鳴くとされており、そこに遠く離れた妻や恋人を恋い慕う感情を重ねています。
【声聞くときぞ秋は悲しき】
「ぞ」は強意の係助詞で、文末を形容詞「悲し」の連体形「悲しき」で結びます。「は」も係助詞で、他と区別してとりたてて、というような意味になります。ここでは「他の季節はともかく、秋は」という意味です。全体では「鹿の鳴き声を聞くときは、とりわけ秋が悲しく感じる」というのです。 |
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●猿丸の歌は紅葉と鹿の取り合わせを人々の心に定着させ、花札の10月の絵柄に影響を与えました。無視することを「しかとする」と言いますが、この俗語は、札の鹿がそっぽを向いていることが由来です。 |
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●「古今集」巻4に秋歌、題知らずよみ人知らずとして紹介されています。
●鹿は、ピーという甲高い声で鳴きますが、晩秋から初冬にかけて、この声がひときわ響き渡ると、厳しい寒さが迫っていることを感じている人々の胸にしみわたり、いつしか鹿が妻を求めて鳴いているのだと解するようになりました。こういう風流な見立てが和歌での約束事の一つです。
●定家は、この歌のもの悲しい鹿の鳴き声をきわだたせるために、季節を仲秋から晩秋へ、萩(はぎ)の「黄葉」から楓(かえで)の「紅葉」に表記を変えています。また、定家の本歌取りに「秋山は 紅葉踏み分け とふ人も 声きく鹿の 音にぞなきぬる」とあり、定家は踏み分けているのは人だとみていたようです。
●定家の父である83番・俊成の歌には「世の中よ 道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる」があります。 |
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●猿丸の時代のもみぢは、銀杏(いちょう)や萩(はぎ)などの黄葉を指していました。萩を女性に、鹿を男性に見立てて、和歌の世界では恋仲とされました。ところが、百人一首の撰者・定家の時代になると、平安京の山々の楓(かえで)がもみぢとされ、紅葉を指すようになりました。 |
●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では歌碑めぐりを楽しめます。「奥山に」の歌碑は、亀山公園にあります。 |
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