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((ふじわらのもととし)
<1060年~1142年> |
71番・大納言経信関白・藤原道長のひ孫で、父は右大臣俊家(としいえ)という名門藤原北家の出身です。和歌や漢詩の才能に優れ、74番・源俊頼とともに院政期の歌壇の指導者として活躍しました。80代の頃、25歳の83番・藤原俊成が弟子入りしていますが、「古今集」など伝統的な和歌の重要性を教えました。 |
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『千載集』雑・1023 |
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約束してくださいました「させも草」という恵みの露のようなありがたいお言葉を、命とも頼みにしておりましたのに、ああ、今年の秋もむなしく過ぎていくようです。 |
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この歌には長い詞書が記されています。作者の藤原基俊(もととし)には、奈良興福寺の律師光覚(こうかく)という息子がいました。興福寺では10月10日から16日まで維摩経(ゆいまきょう)を教える維摩会(ゆいまえ)が行われますが、この講師(経を読む役)を希望していましたが、毎年選ばれずにいました。そこで、主催者の長である法性寺(ほっしょうじ)入道で76番・前太政大臣藤原忠通(ただみち)に頼んだところ、忠通は「しめぢが原の さしも草」と、古歌で答えました。この歌は「新古今集」にある清水観音の詠歌です。「なほ頼め しめぢが原の させも草 我が世の中に あらむ限りは」(やはり私を頼みにしていなさい。たとえあなたがしめじが原のヨモギのように思い悩んでいても、私がこの世にいるかぎりはひたすら信じなさい)というもので、「大丈夫だ、私に任せておけ」という意味になります。しかし、その年も光覚は講師に選ばれませんでした。それで「約束したのに、ああ、今年の秋もむなしく過ぎていくのか」という嘆きを歌にしたのです。忠通が口にした観音詠歌の「させも」を歌に入れ、掛詞と縁語を配した技巧の光る一首です。行く秋の物悲しさの中に、子を思う親心がしみじみと伝わってきます。かつての権力者の子孫のへりくだるような調子が、悲哀感を濃くしています。 |
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【契(ちぎ)りおきし】
「契りおき」は「約束しておく」意味の動詞の連用形で、「おく」は露の縁語です。「約束しておいた」という意味です。
【させもが露】
「させも草」は、平安時代の万能薬だったヨモギのこと。「露」は恵みの露という意味で、作者が息子のことを頼んだ藤原忠通が「まかせておけ」とほのめかしたことを指します。
【命にて】
「たのみにして」という意味です。
【あはれ】
「ああ」、と感情をこめて洩らす感動詞です。
【秋もいぬめり】
「往ぬ」は「過ぎる」でナ変動詞の終止形です。「めり」は推量の助動詞で「秋も過ぎ去ってしまうことだろう」という意味です。 |
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●奈良の興福寺は国宝の五重塔や八角形をした南円堂、また凛とした顔立ちの阿修羅像などで知られています。藤原氏の祖・藤原鎌足とその子・藤原不比等ゆかりの寺院で、藤原氏の氏寺として平安時代は栄えていました。 |
●「させも草」は、平安時代の万能薬だったヨモギのことです。 |
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●毎年行われる奈良の興福寺の維摩会(ゆいまえ)は、維摩経を講読する仏教の会合で、陰暦10月に興福寺で行われるものが有名です。藤原鎌足の命日が10月16日で、維摩会はその日を最終日として7日間行われます。なお、講師に選ばれなかった息子の光覚は、保延6年(1140)に 、竪義(りゅうぎ:興福寺で行われた学僧の試験。探題が出題し、問者の問う論題に対し答える人。)に任命されています。
●「契りおきし」の歌は、詞書がなければ、子を思う親心の歌ではなく、悲恋の歌と解釈できます。「契り」「させも」「露」「命」「秋(飽き)」などは恋歌のイメージの強い言葉だからです。 |
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●息子を維摩会(ゆいまえ)の講師にしてほしいと頼んだ相手は、主催者の長である76番・前太政大臣藤原忠通(ただみち)でした。 |
●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では、100基の歌碑めぐりを楽しめます。中之島公園よりさらに下流にある嵐山東公園に「契りおきし」の歌碑があります。 |
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