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(しゅんえほうし)
<1113年~1191年頃> |
71番・源経信(つねのぶ)の孫、74番・源俊頼(としより)の息子で、3代続けて百人一首に歌が選ばれています。「金葉集」の撰者である父に歌を学び、出家して奈良・東大寺の僧となりました。京都白川の別邸を「歌林苑(かりんえん)」と名付け、歌人たちを集めて歌会を催しました。俊恵法師の弟子である鴨長明は、「無名抄(むみょうしょう)」に、俊恵法師の歌論を伝えています。 |
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『千載集』恋二・766 |
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一晩中いとしい人を待ってもの思いに沈むこの頃は、夜がなかなか明けないので、(いつまでも明け方の光が射しこまない)寝室の戸の隙間までも、つれなく思われることです。 |
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女性の立場になって「恋」の題で詠んだ題詠歌です。当時、男性が女性の立場で歌を詠むのは、和歌の技巧としてしばしば用いられたそうです。恋の歌の「もの思ふ」は、恋人のつれなさを恨むもの思いの意味です。昼の間は気を紛らわせることもできますが、毎晩毎晩恋人を待ち続けて、眠れぬ夜を過ごす身にとっては、夜の闇がつらく、一刻でも早くつらい夜が明けてほしいと願うものです。ところが、寝室の戸の隙間までがつれなくて、朝の光はなかなか射してくれません。暗闇の中で、ひたすら夜明けを待っている女性の痛々しい姿が伝わってきます。「閨のひま」を詠みこんだ着想が新鮮で、恋人がつれないうえに、寝室の戸の隙間までもがつれないと、擬人的に表現しているところに俊恵法師の工夫が感じられます。なお、3句目の「明けやらで」は「千載集」や百人一首の古い写本では「明けやらぬ」となっていて、こちらの方が原形であり、江戸時代に入ってから「明けやらで」に変わったようです。「明けやらで」で切った方が、もの思いよる夜長の感じがよく表現できると評価する研究者もいます。 |
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【夜もすがら】
副詞で「夜通し」とか「一晩中」という意味です。
【もの思ふ頃は】
「もの思ふ」は、恋歌によく出てきますが、つれない人を想って思い悩むという意味です。「頃は」には「この頃」とか「夜ごと夜ごと」という意味があるので、全体で「毎晩つれない人のことを想って」という意味になります。
【明けやらで】
「夜が明けきらないで」の意味になります。下二段動詞「明く」の連用形「明け」に、補助動詞で「すっかり~し終える」という意味の「やる」の未然形がつき、さらに打消しの接続助詞「で」が結びついたものです。
【ねやのひまさへ】
「ねや(閨)」は「寝室」のことで、「ひま」は空間的な割れ目やすき間のことです。「さへ」は「~でさえ」のことで、ここでは「つれない想い人だけでなく寝室の隙間さえもが」という意味となります。
【つれなかりけり】
「冷たい」とか「無情だ」とかいう意味で、現代語とそう変わりませんね。「つれなし」という形容詞の連用形に、詠嘆の助動詞「けり」がついた形です。 |
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●「ねや(閨)」は「寝室」のことで、「ひま」は空間的な割れ目やすき間のことです。※平安時代の部屋の様子 |
●父の74番・源俊頼(としより)「うかりける 人を初瀬(はつせ)の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを」 |
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●「ねやのひま」という表現は俊恵法師の歌が初出で、それ以後もほとんど用例がありません。訪れてほしい恋人は来ず、かわりに有明の月の光が寝室の隙間から差し込んでいるのです。女性の家を訪れた男性が帰る時刻は暁の午前3時、言いかえると、もう恋人は来ないと分かる時刻ともいえます。早く白んでくれればいいのに、夜はなかなか明けない、独り寝の寂しさを巧みに詠じた歌だといえます。 |
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●祖父、父、息子の3代続けて百人一首に歌が選ばれているのはこの3人だけです。祖父の71番・源経信(つねのぶ)「夕されば 門田(かどた)の稲葉(いなば) おとづれて 芦(あし)のまろやに 秋風ぞ吹く 」 |
●小倉百人一首の編纂の舞台となった嵐山・嵯峨野では、100基の歌碑めぐりを楽しめます。「夜もすから」の歌碑は、中之島公園よりさらに下流にある嵐山東公園にあります。 |
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