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大江千里
(おおえのちさと。生没年不明)
9~10世紀初頭にかけて生きた人だといわれています。大江家は、24番・菅原道真の菅家(かんけ)とならぶ学者の家系として知られ、父の参議大江音人(おとんど)も著名な漢学者でした。17番・在原業平、16番・行平の甥(おい)になります。中務少丞(なかつかさしょうじょう)や兵部大丞(ひょうぶだいじょう)などを歴任しました。伊予国(現在の愛媛県)の権守(ごんのかみ)に赴任した当時、罪によって一時、謹慎(きんしん)させられたようです。寛平・延喜(889~923年)頃に漢詩人として活躍しました。名高い漢詩句を題に、和歌に移し替えて詠むのは、得意中の得意でした。文章博士(もんじょうはかせ)として当代きっての知識人であった千里は、白楽天(はくらくてん:唐の詩人)の漢詩句を和歌に変えています。家集の「句題和歌(くだいわか:大江千里集)」は、宇多天皇の命令によって、「白氏文集(はくしもんじゅう:白楽天の漢詩文集)」などの漢詩の詩句を題として詠んだ和歌集です。これは「古今集」の先駆けといわれています。 |
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●「照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の 朧月夜 にしくものぞなき」(照りもしないし、曇りきってもしまわない春の夜のおぼろにかすむ月の美しさにおよぶものはないことだ。「新古今集」にある「白氏文集」の翻案です。「不明不暗 朧々月」という漢句を和歌に詠みかえています。この歌の下の句は「源氏物語」花宴(はなのえん)の巻に、光源氏と右大臣の六の君との出会いの場面で効果的に引用されています。六の君は「朧月夜の君」と呼ばれます。)
●「大かたの 秋くるからに 我が身こそ 悲しきものと 思ひ知りぬれ」(誰の上にも来る秋が来ただけなのに、私の身の上にこそ誰にもまして悲しいことがわかった。「古今集」白楽天の詩句の翻案ですが、官途が思い通りに進まず、家集の秋の歌には老いを迎える寂しさがうかがえます。)
●「鶯(うぐいす)の 谷よりいづる 声なくは 春来ることを 誰か知らまし」(長い冬から解放され、谷間を出てこずえにさえずる鶯の声を聞かないで、誰が春の来ることを知ることができようか。「古今集」中国の最古の詩集「詩経」から作られた詩です。鶯の声で春の喜びを表現しています。)
●「音(ね)に泣きて ひちにしかども 春雨に ぬれにし袖(そで)と 問はばこたへむ」(本当は声あげて泣いて、びっしょり涙で濡れた私の袖だけれども、春雨に濡れたのだと、人に問われたら答えよう。「古今集」恋歌)
●「秋の日は 山の端ちかし 暮れぬ間に 母に見えなむ 歩めあが駒」(秋の日は短いので、すぐ山の端に沈んでしまう。日が暮れてしまわないうちに母に会いたい。歩を進めよ、我が馬よ。「句題和歌」外出中、母が病気になったと聞いて、家へ帰る時に詠んだ歌です。) |
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●「古今集」の時代の歌は、漢詩の影響を受けているものが多く、その中でも平安時代の日本人は唐の詩人・白居易(はくきょい)を愛していました。白居易は、日本では白楽天という字(あざな:実名以外に付けた名)で呼ばれることが多い詩人です。玄宗皇帝と楊貴妃(ようきひ)の悲恋を描いた長編の漢詩「長恨歌(ちょうごんか)」は有名です。また、白居易の漢詩文集「白氏文集(はくしもんじゅう)」は平安貴族の誰もが知っていて、平安朝文学に大きな影響を与えました。
●漢詩から和歌への流れを考える上で、11番・篁、24番・道真とともに千里の存在は重要です。千里は家集「句題和歌」の漢文序に、重い責任を感じて病気になるほど悩み、和歌に未熟なので句題和歌の形で詠んで、ようやく任を果たしたと記しています。「句題和歌」は漢詩と和歌のむすびつきを示す作品であり、「古今集」成立への架け橋となりました。
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●千葉県に大江千里の歌碑が2つあります。野鳥の森にある歌碑は「下総の 伊波乃浦なみ たつらしも 舟人さわぎ から艪(ろ)おすなり」(伊波乃浦は印旛沼のこと)と刻まれています。 |
●鷲(わし)神社境内の歌碑は「鶯(うぐいす)の 谷より出(いづ)る 声なくば 春くることを 誰かしらまし」です。(佐倉市先崎1580) |
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●江戸時代に出版された「紅葉百人一首小倉錦」には、歌仙絵と和歌、歌の注釈も載っています。 |
●大江家は、24番・菅原道真の菅家(かんけ)とならぶ学者の家系として知られていました。「格好悪いふられ方」などの歌で知られるミュージシャン、大江千里(せんり)さんとはまったく関係ありません。 |
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