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文屋康秀
(ふんやのやすひで。生没年不明)
9世紀頃の平安初期の歌人で、別称・文琳(ぶんりん)。37番・朝康の父。天武天皇の子孫にあたります。860年から879年まで形部中判事、三河掾(みかわのじょう)、縫殿助(ぬいどののすけ)など、官職は低かったのですが歴任しています。六歌仙の一人で歌人としては有名でした。二条の后高子(たかいこ)に召され、17番・在原業平や21番・素性法師らとともに歌を献じました。軽快な知的技巧が一瞬にして人の心をつかんだことでしょう。ただし、35番・紀貫之は「古今集」の仮名序で康秀の作風について「詞(ことば)はたくみにて、そのさま身におはず。いはば商人(あきひと)のよき衣着たらむがごとし」と手厳しく批評しています。言葉はうまいが身についていない、人柄よりも技巧が勝っているという意味でしょうか。また、9番・小野小町とも親交があったらしく、三河掾(みかわのじょう)として三河国に下る時に小野小町を誘った逸話は有名です。勅撰集には6首入集しています(「古今集」4首と「後撰集」1首)。「古今集」の2首は息子の朝康の作といわれていて、「吹くからに」の歌は息子の朝康の作だというのが通説になっています。 |
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●「春の日の 光のあたる 我なれど かしらの雪と なるぞわびしき」(春の日を浴び、そして春の宮様のお恵みをこうむっている私ですが、このように雪が降りかかり、そして髪も年とともに白くなりました。それだけが情けないことです。「古今集」正月3日、「折ふし日は照りながら雪の頭に降りかかりける」(日が照っているのに、康秀の頭に雪が降りかかっている珍しい天候)を歌に詠めと、春宮の御息所・藤原高子に命じられて即詠した歌で、当時評判になったようです。)
●「草も木も 色かはれども わたつうみの 浪の花にぞ 秋なかりける」(秋になると野の草も木も色が変わるけれども、海の波の花は、花と言っても秋に色の変わることはないのであるよ。「古今集」)
●「花の木に あらざらめども 咲きにけり 古りにしこのみ なる時もがな」(花をつける木ではないでしょうに、花が咲いたことです。古ぼけた木の実ならぬわが身も、いつか実のなる時があってほしいものです。「古今集」仏に供える木を削った造花が御殿の廊下にがさしてあるのを見て詠んだ歌で、わが身の不遇を訴えています。)
●「白雲の 来やどる峰の 小松原 枝しげけれや 日のひかり見ぬ」(雲が流れてきて宿る峰の小松原は、枝がたくさん繁っているからだろうか、日の光を見ることがない。「後撰集」「日のひかり」は、天皇や権力者の恩恵をたとえたもので、これも官位の不遇を嘆いた歌です。) |
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●35番・紀貫之は「古今集」仮名序で「文屋康秀は、詞(ことば)たくみにて、そのさま身におはず。いはば、商人(あきひと)のよき衣(きぬ)着たらむがごとし。」(言葉の使い方は巧みですが、歌の姿が内容にぴったりと即していません。いってみれば、商人がりっぱな衣装を身にまとったようなものです。)と評しています。技巧に比べて歌の内容が貧弱、通俗という意味でしょうか。
●「古今集」の小野小町の歌の詞書に、「文屋康秀が三河掾(みかわのじょう)になりて、「県見(あがたみ)にはえいでたたじや」と言ひやれりける返事(かへりごと)によめる」とあります。三河国(現在の愛知県東部)の地方官に任じられた時、9番・小野小町に「今度の私の任国をご視察においでになりませんか。」と誘ったのです。それに対して小町は、「わびぬれば 身を浮草の 根を絶えて 誘う水あらば いなむとぞ思ふ」 (落ちぶれて心細く暮らしていますので、この身を浮き草として根を断ち切って誘い流してくれる水があるなら、ついて行こうと思います。)と答えています。実際に一緒に行ったかどうかはわかりませんが、「古今著聞集」や「十訓抄」といった説話集に、この歌をもとにした話が載せられるようになりました。「百人一首一夕話」には、年をとって容姿も衰え、荒れた家に住んでいた小町は、康秀の誘いに喜んで応じたと書いています。どちらにしても親しい仲であったことは確かのようです。 |
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●康秀は六歌仙の一人です。江戸時代に出版された「紅葉百人一首小倉錦」には、歌仙絵と和歌、歌の注釈も載っています。 |
●押立神社は「大宮さん」の名前で親しまれた押立郷(庄屋)17カ村の総社です。「ドケマツリ」と羞悪する珍しい古式神事が60年ごとに斎行されるそうです。 |
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●親しくしていた女性は9番・小野小町です。三河国の地方官に任じられた時にいっしょに行きませんかと誘っています。(嵯峨嵐山文華館にて展示) |
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