陰暦 7月25日
(9月 8日) |
|
|
|
小松と云所にて
しをらしき名や小松吹萩すすき
この所太田の神社に詣づ。実盛が甲・錦の切あり。往昔、源氏に属せし時、義朝公より賜はらせ給ふとかや。げにも平士のものにあらず。目庇より吹返しまで、菊唐草のほりもの金をちりばめ、竜頭に鍬形打ちたり。実盛討死の後、木曾義仲願状にそへて、この社にこめられ侍るよし、樋口の次郎が使せし事ども、まのあたり縁起にみえたり。
むざんやな甲の下のきりぎりす |
|
しおらしき なやこまつふく はぎすすき
むざんやな かぶとのしたの きりぎりす |
|
|
|
|
小松というところで詠んだ句
しをらしき名や小松吹く萩すすき
<小松とはしおらしく可憐な名前だなあ。その名前にふさわしく、ここでは小さい松に吹く風が、また同時に萩や薄にも吹きかかっている。味わいのある情景である。> この地の太田神社にお参りする。この神社には実盛の兜や錦の直垂の切れがある。その昔、実盛が源氏に所属していたとき、義朝公からいただきなさったのだとかいうことである。本当にまあ普通の武士の所有するものではない。兜の目庇から吹き返しまで菊唐草の彫り物がしてあり、それにさらに金をちりばめ、加えて竜頭を飾り、鍬形を打ちつけてある。実盛が討ち死にしたあと、木曽義仲が祈願状にそれら兜と錦の直垂を添えて、この神社に奉納なさいましたことや、樋口の次郎がその使いをしたことなどが、目の前で見るように、この神社の縁起に記されている。
むざんやな甲の下のきりぎりす
<むざんだなあ。この素晴らしい兜をかぶって戦ったことだろうが、今この下ではきりぎりすが、悲しそうに鳴いていることだよ。>
※ 現代語訳 土屋博映中継出版「『奥の細道が面白いほどわかる本 」中経出版の超訳より |
|
|
|
|