陰暦 8月 8日
(9月21日) |
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大聖寺の城外、全昌寺といふ寺にとまる。なほ加賀の地なり。曾良も前の夜、この寺に泊りて、
終宵秋風聞くやうらの山
と残す。一夜の隔て、千里に同じ。吾も秋風を聞きて衆寮に臥せば、明ぼのの空近う読経声すむままに、鐘板鳴つて食堂に入る。けふは越前の国へと、心草卒にして堂下に下るを、若き僧ども紙・硯をかかへ、階のもとまで追ひ来る。折節庭中の柳散れば、
庭掃いて出でばや寺に散る柳
とりあへぬさまして、草鞋ながら書き捨つ。 |
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よもすがら あきかぜきくや うらのやま (そら)
にわはいて いでばやてらに ちるやなぎ |
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大聖寺という城下の離れたところにある、全昌寺という寺に泊まった。この寺は、まだ加賀の地である。曾良も前夜、この寺に泊まって、
終宵秋風聞くやうらの山 曾良
<先生と別れて一人でこの寺に泊まったが、寂しさのあまり眠ることができず、ひと晩中裏山に吹く秋風の音を聞いていたよ。曾良作。>
という句を残していった。曾良と私は一夜を隔てているだけだが、会えないということにおいては千里離れているのと同じだ。私も曾良と同じ気持ちで秋風を聞きながら僧侶の宿舎に休むと、明け方の空が近くなる頃、お経を読む声が澄み切って聞こえるうちに、合図の鐘板が鳴って食堂に入った。今日は越前の国へ入ろうと、心あわただしいままに堂の下に降りる私を見て、若い僧侶たちが紙や硯を抱えて、階段のところまで追いかけてくる。ちょうどそのとき、庭の柳がはらはらと散るので、
庭掃いて出でばや寺に散る柳
<一夜泊めていただいたお礼に、せめてこの寺の庭に散っている柳を掃いてから出発したいものです。>
と、取り急いだ様子でわらじを履いたまま書き捨てるように与えた。
※ 現代語訳 土屋博映中継出版「『奥の細道が面白いほどわかる本 」中経出版の超訳より |
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