陰暦 8月11日
(9月24日) |
|
|
|
福井は三里ばかりなれば、夕飯したためて出づるに、たそかれの路たどたどし。ここに等栽といふ古き隠士あり。いづれの年にか、江戸に来りて予を尋ぬ。
遙か十とせ余りなり。いかに老いさらぼひてあるにや、はた死にけるにやと人に尋ね侍れば、いまだ存命してそこそこと教ふ。市中ひそかに引き入て、あやしの小家に夕顔・へちまのはえかかりて、鶏頭・ははき木に戸ぼそをかくす。さてはこのうちにこそと、門をたたけば、侘しげなる女の出でて、「いづくよりわたり給ふ道心の御坊にや。あるじはこのあたり何がしといふものの
方に行きぬ。もし用あらば尋ね給へ。」といふ。かれが妻なるべしと知らる。むかし物がたりにこそかかる風情は侍れとやがて尋ねあひて、その家に二夜とまりて、名月は敦賀のみなとにと旅立。等栽も共に送らんと裾をかしうからげて、
路の枝折とうかれ立つ。 |
|