塩 釜
陰暦  5月 9日
(6月25日)
 早朝、塩釜の明神に詣づ。国守再興せられて、宮柱ふとしく、彩椽きらびやかに、石の階九仞に重なり、朝日あけの玉垣をかかやかす。かかる道の果、塵土の境まで、神霊あらたにましますこそ、わが国の風俗なれと、いと貴けれ。神前に古き宝燈あり。かねの扉の面に、「文治三年 和泉三郎 奇進」とあり。五百年来の俤、今目の前にうかびて、そぞろに珍し。かれは勇義忠孝の士なり。佳名今に至りて、したはずといふ事なし。誠に人能く道を勤め、義を守るべし。「名もまたこれにしたがふ」といへり。
 日既に午に近し。船をかりて松島にわたる。その間二里余、雄島の磯につく。
 朗 読


止
 朝早く、塩釜の明神にお参りする。この神社は藩主が再建なさって宮柱が太く、彩りをつけた垂木は輝いていて、石の階段はたくさん重なり、差し込む朝日が朱塗りの玉垣をきらきら輝かしている。このような道の果てのような辺境の土地まで神の霊験があらたかでいらっしゃることこそ、わが国の古来からの風習なのだと、たいそう尊く思われる。神前に古い素晴らしい灯籠がある。鉄の扉の表面に「文治三年 和泉三郎 寄進」と記されている。五百年この方の面影が、今も目の前にありありと浮かび上がってきて、わけもなく珍しい。彼、和泉三郎は、勇気、忠義、孝心をすべて備えた立派な人物である。その高名は今にまで至って、慕わない者はない。本当に人はしっかりと道にかなった生き方をし、義理を守るべきだ。そうすれば「名声もまたこれに伴うものである」と古人も言っている。
 日はもう正午に近い。そこで船を雇って松島に渡る。その距離は二里余りで、雄島の磯に着いた。


 
 ※ 現代語訳 土屋博映中継出版「『奥の細道が面白いほどわかる本 」中経出版の超訳より
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