陰暦 5月 4日
(6月20日) |
|
|
|
武隈の松にこそ目覚る心地はすれ。根は土際より二木にわかれて、昔の姿うしなはずと知らる。先づ能因法師思ひ出づ。往昔陸奥守にて下りし人、この木を伐りて、名取川の橋杭にせられたる事などあればにや、「松はこのたび跡もなし」とは詠みたり。代々、あるは伐、あるひは植ゑ継ぎなどせしと聞くに、今はた千歳のかたちととのほひて、めでたき松のけしきになん侍りし。
「武隈の松見せ申せ遅桜」
と、挙白といふものの餞別したりければ、
桜より松は二木を三月越し |
|
さくらより まつはふたきを みつきごし
たけくまの まつみてもうせ おそざくら (きょはく)
|
|
|
|
|
武隈の松を見て、はっと目が覚めるような気持ちがする。根は土の生え際から二本に分かれていて、昔そのままの姿を失っていないとわかる。真っ先に能因法師を思い出す。その昔、陸奧守としてここに下ってきた人が、この木を切って名取川の橋の杭にされたことなどがあったからであろうか、「松は、前に来たときはあったのに、今度来たときはあとかたもない」と歌に詠んでいる。代々、あるいは切り、あるいは植え継いだりなどしたと聞いていたが、今はまた千年を保つというような形が備わっていて、本当になんとも言えない素晴らしい松の様子であった。
「あの有名な武隈の松を芭蕉先生にお見せ申し上げろ、遅く咲いている桜よ」
と、挙白という弟子が別れの句を贈ってくれたので、それに答えて詠んだ。
桜より松は二木を三月越し
<江戸で遅く咲く桜を見てからあこがれていたあの有名な武隈の二木の松を、今ようやく三月越しに見ることができたことだよ。>
※ 現代語訳 土屋博映中継出版「『奥の細道が面白いほどわかる本 」中経出版の超訳より |
|
|
|
|