日 光
陰暦  4月 1日
(5月19日)
 丗日、日光山の麓にとどまる。あるじのいひけるやう、「わが名を仏五左衛門といふ。よろづ正直を旨とする故に、人かくは申し侍るまま、一夜の草の枕も打ち解けて休み給へ。」といふ。いかなる仏の濁世塵土に示現して、かかる桑門の乞食順礼ごときの人をたすけ給ふにやと、あるじのなす事に心をとどめて見るに、唯無智無分別にして、正直偏固の者*なり。剛毅木訥の仁に近きたぐひ、気稟の清質、もつとも尊ぶべし。
 卯月朔日、御山にも詣拝す。往昔、この御山を二荒山*と書きしを、空海大師は開基の時、日光と改め給ふ。千歳未来をさとり給ふにや、今この御光一天にかかやきて、恩沢八荒にあふれ、四民、安堵の栖穏かなり。なお、憚り多くて、筆をさし置ぬ。
  あらたふと青葉若葉の日の光
 
黒髪山は霞かかりて、雪いまだ白し。
  剃り捨てて黒髪山に衣更  曾良

 曾良は河合氏にして惣五郎といへり。芭蕉の下葉に軒をならべて、予が薪水の労をたすく。このたび松島・象潟の眺共にせん事を悦び、かつは羈旅の難をいたはらんと、旅立つ暁、髪を剃りて墨染にさまをかへ、惣五を改めて宗悟とす。よつて黒髪山の句あり。衣更の二字、力ありてきこゆ。
 廿余丁、山を登つて滝あり。岩洞の頂より飛流して百尺、千岩の碧潭に落ちたり。岩窟に身をひそめ入りて、滝の裏よりみれば、裏見の滝と申し伝へはべるなり。
  暫時は瀧に籠るや夏の初
 朗 読


止
あらたふと 青葉若葉の 日の光
あらとうと あおばわかばの ひのひかり

剃り捨てて 黒髪山に 衣更(曾良)
そりすてて くろかみやまに ころもがえ


暫時は 瀧に籠るや 夏の初
しばらくは たきにこもるや げのはじめ
 三十日、日光山のふもとに泊まる。その主人が言ったことには、「私の名前を仏五左衛門と人々が呼びます。あらゆることにおいて、正直をモットーにしておりますために、人がこのように申しますので、一夜の旅寝もゆったりとくつろいでお休みください」と言う。どのような仏さまが汚れたこの世に姿を現して、このような僧侶の姿をした、食を人に恵んでもらい諸国の霊地を回るような人を救いなさるのだろうかと、主人の行動を注意して見ていると、ただこざかしい知恵や考えなど持ち合わせず、正直一本道の人間である。性格がしっかりしていてお世辞も言えないような人柄の、儒教で最高峰の「仁」という徳に近い種類の人間で、生まれついた清貧の性格はこのうえなく尊ぶべきである。
四月一日、日光山にお参りする。この御山を「二荒山」と書いたのだが、空海大師が寺を開かれたとき、日光と改めなさった。千年も先のことを予測なさったのだろうか、今この東照宮のご威光は天下に向かって光り輝いて、恩恵はあらゆるところに満ちあふれ、民は皆安心して生活し、穏やかな状態である。もっと記したいのだが、恐れ多くて、筆を置くことにした。
       あらたふと青葉若葉の日の光
  
 <ああ尊いことだ。東照宮のある日光山の青葉や若葉に照り輝く初夏の日の光は。>
黒髪山は霧がかかっていて、雪がまだ白く残っている。
      剃り捨てて黒髪山に衣更  曾良
   
<髪を剃り捨てて、僧衣に着替えてここまでやってきたが、ここ黒髪山で衣更の日を迎えたことだよ。曾良作。>
曾良は河合氏であって惣五郎と言っていた。芭蕉の下葉のように近くに軒を並べて住み、私の炊事の面倒を見てくれている。今度、松島・象潟の情景を一緒に見ようということを喜んで、一方では私の旅のつらさを助けようと、旅に発つ明け方、髪を剃って黒染の僧衣に様子を変え、惣五を改めて宗悟と名乗る。そこで黒髪山の句を詠んだのである。衣更の二字には力が込められているように思われる。
二十余丁ほど、山を登っていくと滝がある。岩の洞穴の頂上から飛ぶように流れ落ちること百尺、多くの岩の滝つぼに落ち込んでいる。岩の洞穴に身を縮めて入り込んで、滝の裏側から見るので、裏見の滝と申し伝えているようである。
      暫時は滝に籠るや夏の初
   
<しばらく滝の中にいると、夏籠もりをしているようだよ。夏の初めのこの時期に。>
        
※ 現代語訳 土屋博映「奥の細道が面白いほどわかる本 」中経出版の超訳より
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